『毒親』という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
毒親とは、アメリカのスーザン・フォワードの著書『毒になる親・一生苦しむ子供』という本の中から生まれた言葉で、子供に対して主に『身体的虐待・心理的虐待・ネグレクト(子育て放棄)』をする親のことを指します。
そう聞くと、ほとんどの親御さんは「自分には関係ない」と思うかもしれませんね。
でも、明らかな毒親ではなくても、日々の子育ての中の何気ない言動の積み重ねが、子供に後々の人生にまで及ぶ心理的影響を与えることが。
毒親ほど表面化はしにくいけれど、
無気力・不登校・激しい反抗期・成人後の引きこもりやニート
など、それぞれの家庭の中で深刻な問題が起きてしまうケースもありますよ。
それを『隠れ毒親』といい、自らがコンプレックスを抱えていることが多い毒親とは違い、仕事も子育てもバリバリこなすいわゆる『できる親』がなりがちなものです。
ここでは、暴力やネグレクトなどの明らかな毒親まではいかない『隠れ毒親』について、モンテッソーリ教育とチャイルドコーチングの指導者で1児の母でもある筆者が解説していきます。
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『隠れ毒親度』をチェックしてみよう!
まず、次の『隠れ毒親度チェック表』で当てはまる数を数えてみましょう。
隠れ毒親度チェック
- 子供がしようとしていることに、つい手や口を出してしまう
- 「この子は自分がいないとダメだな」と思う(乳幼児期を除く)
- 自分が知る効率の良い方法や生き方を教えて、できるだけつまづかないようにしてあげたい
- 子供の成績が上がったり何かで表彰されたりすると鼻が高く、逆に成績が悪いとひどくがっかりする
- いくら頑張っても、結果が良くなければ意味が無いと思う
- 子供に尊敬されたい、誰よりも親の自分を好きでいてほしい
- 学校での出来事や友人関係など、できる限り把握しておきたい
- 子供との会話は、気がつくと自分の方が沢山喋っている
- 子供の人生をどんな風にしようか、何の職業がいいかと考えるとワクワクする
- 自分の友人や同僚などに「この人はもっとこうすれば良いのに」とイライラすることが多い
10個のうち、あてはまるものが
7個~:すでに隠れ毒親の可能性が大です
4~6個:隠れ毒親予備軍です
~3個:隠れ毒親の心配はないでしょう
ここからわかるように、隠れ毒親の一番の特徴は『子供への依存と行き過ぎた管理』。
子育てを、親の『自己実現の場』と考えてしまうケースが多いです。
「これくらいは誰にでもあるのでは?」
と思うかもしれないけれど、これらを自覚して気をつけていけるかどうかが、子供がどれだけ伸びのびと成長していけるかに関わってきますよ。
『隠れ毒親』は、毒親ほど子供の人格への悪影響はないものの、子供の『生きやすさ』、学校の成績、親子関係にいたるまで、ボディーブローのようにじわりじわりと影響を与えていくものです。
では、隠れ毒親とは具体的にどういうものか、そうならない為にはどうすればよいのでしょうか?
隠れ毒親の主な特徴は、次の4つ。
隠れ毒親の特徴
1つずつみていきましょう。
隠れ毒親の特徴①
一日中子供のことを考えてしまう
隠れ毒親の特徴の1つめは、一日中子供のことを考えてしまうこと。
子供のことを考えるのは決して悪いことではありません。
でも家事や仕事がおろそかになるほど子供のことばかりを考えて一日中過ごしているとしたら、それは子供の人生に『依存』し過ぎているかも。
まず、次のような親の役割としてすべきことを考えるのは当然ですよね。
- 今日の子供の晩ご飯は何にしようか。
- 習い事のお月謝を、明日までに用意しておかなくちゃ。
- 夏休みの子供との旅行はどこがいいかな。
- 昨日子供にこう相談されたけど、どう答えてあげれば気持ちが楽になるかな。
でも、次のような子供が自分で考えるべきことや、親が考えてもどうしようもないことまで一日中頭から離れないといった場合は、少し依存度が高いと言えます。
- 園や学校で毎日どう過ごしているのか、気になってしょうがない。
- あのお友達とは付き合わないでほしいけど、どうすればいいかしら。
- あの子はパパに似てこんなところが悪いのよね、本当に困るわ。
- 進路はどうしよう。人生設計をしっかり立ててあげなくちゃ。
子供のことで必要以上に悩んでしまう親御さんは、子供に頼られることに強く生きがいを感じ、「自分がいないとこの子1人では何もできない」と考える傾向にあります。
確かに子供が小さいうちは、子供の生活のほとんどに親が関わり、子供も常に「ママ!パパ!」と頼ってきますよね。
それが、成長するにつれて子供の世界や交友関係が広がり、親が関わる割合が少なくなってきます。
子供への依存度が高い親は、その変化を受け入れられず、表向きは『子供のため』という体裁で、何歳になっても子供の生活や進路にグイグイ関わろうとします。
そして、子供が自分の手から離れていかないように、自分の考えの範疇から飛び立っていかないように、うまくコントロールしようとするのです。
時には、子供が親離れしていく時期に、
「あ~あ、お母さん一人ぼっちになっちゃうな。」
と同情を買ったり、
「あなたには無理よ」
「あなたはダメね。育て方を間違えたわ」
などと言って、意識的もしくは無意識のうちに子供の自立心を削いでしまうことも。
このタイプの隠れ毒親の怖いところは、子供自身が親からの影響に気付きにくいところ。
子供に依存する親は、絶対に子供に嫌われないようにうまく立ち回るので、子供も愛情深い優しい親だと信じ、親からの影響に気が付きません。
そして知らず知らずのうちに、何をするにも「親が寂しがらないように」という基準で行動を選択するため、本当に自分がしたいことが何なのか、自分の気持ちに向き合う機会がないのです。
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隠れ毒親の特徴②
子供のすることに、つい手や口を出してしまう
隠れ毒親の特徴その2は、子供のすることについ手や口を出してしまう親。
子供に手や口を出し過ぎる親の心理は、
- 子供の力を信用していないため、心配で何でもやってあげてしまう
- 子供に『してあげる』ことで自分の存在価値を作っている
- 常に子供より自分が優位でありたいと思う
- 子供を自分の理想の『作品』に育て上げることで、自己実現欲を満たそうとしている
といったところ。
子供をかいがいしく世話し何でもやってあげる親は、一見優しく子煩悩に見えます。
でも行き過ぎた手出し口出しは、「子供を管理したい欲」の表れ。
もっと厳しく言えば『支配欲』です。
「あなたが心配」
→ 心配な子でいてほしい・いつまでも自分を必要としてほしい
「あなたには難しいから私がやってあげる」
→ 子供に尊敬されたい・自分を超えていかないでほしい
「〇〇をしなさい」
→ 〇〇ができる子が私の理想
子供を一人の人格として対等に向き合うのではなく、支配する絶対的な親として優位に立ちたい。
『この子の親』という立ち位置が自分にとって一番心地よいので、その立ち位置を絶対に失わないように、子供に必要以上に世話を焼いていくのです。
この隠れ毒親の場合、子供は幼児期から親に何でもやってもらう・決めてもらうのが当たり前なため、子供のほうも親に依存していくケースが多いです。
はたから見ると、とても仲の良い親子に見えるけれど、思春期以降に逆に親子関係がひどく悪化することが。
『依存』の気持ちは『何でもしてもらえる・わかってもらえる期待』に変わり、それが満たされない時には『憎しみ』の気持ちが生まれることがあるからです。
また子供は、
「あなたが心配」
「あなたは1人ではできない」
といった言葉を長年にわたって刷り込まれているため、自己肯定感が低く、大人になってから仕事が続かず引きこもりになったり、結婚生活がうまくいかなかったり、といった弊害が出ることもあります。
親がいなくなった後も何十年も生きていく子供たち。
決して親の満足のために子供を管理し過ぎないようにしましょう。
隠れ毒親の特徴③
『子供の業績=自分の業績』と考える
隠れ毒親の特徴の3つめは、子供の業績を自分の業績と考える親。
これも、完全な『毒親』ではないけれど、積み重なると子供に心理的影響を及ぼします。
問題となる親の行動は、たとえば次の通り。
- 子供の成績が良いととても気分が良く、過剰にほめたりご褒美をあげたりする
- 子供の成績が下がると、落ち込んでイライラし子供を叱責する
- 子供が何かで表彰されたり難関校に合格したりすると、つい周りに自慢してしまう
- 子供が親の考えた『良い人生のレール』から外れると、「どうして!?」と強くとがめる
このタイプの隠れ毒親は、
子供への評価=自分への評価
と捉え、子供の成功がそのまま自分の達成感につながっています。
これもある種の依存と言えますが、自分が「育児」という舞台で脚光を浴びたい『自己顕示欲』の表れでもあります。
「素晴らしい子育てをしているわね」
「見習いたいわ」
「どうやってそんないい子に育てたの?」
などと育児の成功をチヤホヤされることが、第一優先となるのです。
逆に、子供の成績が落ちたり、受験に失敗したり、スポーツでレギュラーから外れたりすると、ひどくがっかりして憤慨します。
中には子供に、
「恥ずかしい!もう外を歩けないじゃない」
などと言ってしまうことも。
さらには、就職先や結婚相手まで口出しをし、とことん『自分が自慢できる子供像』通りに子供に人生を歩ませようとしたりします。
このパターンの隠れ毒親の場合、子供はまず小学生までは親に従順にしたがうことが多いでしょう。
中学生になり思春期を迎えると、親の自己顕示欲に気づいて反発する子と、気づかずに引き続き従順でい続ける子に分かれます。
反発する子は、「結局親が大切なのは自分ではなく世間体」と気づき、意欲を失って勉強しなくなったり、逆にわざと親の嫌がる外れた行動をすることも。
それでも、反発する子は気づけただけまだましで、将来親から完全に独立して、自分で人生を切り開いていけるケースもあります。
怖いのは、気づかずに「親が喜ぶかどうか」だけを基準に行動してしまう子供。
自分で物事を判断する力が育たず、自分がいったい何をしたいのか、本心と向き合って人生の選択をすることができなくなります。
どちらにしても、子供への評価と親の自己実現は切り離して考えないと、子供の心や思考が健全に育たなくなる危険が。
成績が良くても悪くても、どんな学校に行ってどこに就職しようが、親の満足度に関係なくありのままの子供自身を受け入れて認める気持ちが大切です。
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隠れ毒親の特徴④
自分の価値観が一番正しいと思ってしまう
隠れ毒親の特徴の最後は、自分の物差しや価値観が一番正しく、それを子供に教えたいと思う親。
「誰からも愛される子になりなさい」
「友達をたくさん作りなさい」
「もっと頑張って〇〇できるようにならないと」
「こうするのがいいのよ」
「これが一番美味しいのよ、ほら食べて」
「そんな勉強はやめて、これからはITを学ぶべきだよ」
「この職業に就くにはこの大学が絶対にいいよ」
人は誰しも自分の考えに沿って生きていて、歳を重ねるごとに価値観や判断基準を固めていき、それを自分の生きる基盤にしています。
そして、その価値観や知り得た効率の良い生き方を、良かれと思い子供に伝えようとするのは自然なこと。
またそれは伝えようが伝えまいが、長時間一緒に過ごす親子の考え方や価値観はいずれ似てくるものです。
でも、自分たちの分身のように思える子供でも『人格』は別。
まったく同じ感情や思考回路や能力を持つわけではないし、それを望んだり押し付けたりしてはいけません。
また、親がそうしてきたように、子供にとっても、長年かけて自分で試行錯誤しながら価値観や自分なりの物差しを手に入れる『プロセス』が大事。
子供には「失敗する権利」があり、そこから得る成長は親が教えることの比ではないのです。
さらに、私たち親世代が生きてきて時代とこれからの子供たちが生きていく時代は、価値観も物差しも大きく変わるでしょう。
大切なのは、物差しをあげることではなく、物差しの作り方を教えること。
つまり柔軟に考える力や判断力を養うことです。
それには、小さい頃から「自分で考え判断する経験」をたくさん積む必要があります。
子供が拙いなりに一生懸命考えたことや決めたことを頭ごなしに否定せずに、
「そうなんだ、そう考えたんだね」
「そういう考え方も面白いね」
と、まずは子供の考えを尊重してから、
「これからどうするのがいいと思う?」
「一緒に考えてみよう、調べてみよう」
と、しっかり子供の思考回路に合わせて一緒に考えていくようにしましょう。
『隠れ毒親』になりやすい人とは?
以上、4つの隠れ毒親の特徴をみてきました。
どの隠れ毒親の要素も、誰もが少しは持っているもの。
では、その要素が強く出てしまう親とあまり出ない親、いったい何が違うのでしょうか?
本来の『毒親』は、自分自身の人生が充実していない、または強いコンプレックスがあることが原因の場合がほとんどですが、この『隠れ毒親』は必ずしもそうではありません。
むしろバリバリ働いていたり、向上心があり大人になっても何かを勉強し続けていたり、エネルギッシュでコミュニケーション能力も高い、そんな方が隠れ毒親には多い傾向があります。
中には子育ても仕事もしながら、さらにPTAや地域活動、習い事のお世話係までかって出ている、という方も多いですよ。
そういう親は、自分で人生を切り開いてきた自負があり、仕事・人間関係・結婚を成功させたように『子育て』も成功させたいと考え、またそうできる自信も持っています。
子供の人生は、子供に任せるよりも自分が考えたほうが絶対にうまくいく、そう思って子供のすべてを把握し、自分の思い通りに計画して進めようとします。
つまり、親が『子供の人生』という舞台の「監督兼プロデューサー」でありたいと考えているのです。
また、自分の人生の中で失敗した部分があると、「絶対に同じ轍を踏ませまい」とその部分に執着して教育したりもします。
そこまで入れ込んで子育てをすると、今度は子供が自立する時にとても寂しく感じます。
自分が手塩にかけたプロジェクトが手を離れていく…そんな感覚でしょう。
特に子育てや子供関係の付き合い、学校との付き合いにかなりの時間と労力をかけてきた親は、
「子育てが終わったら自分の存在価値が減ってしまう」
と思うかもしれません。
それで、思春期になっても子離れできなかったり、いつまでも自分が必要とされるように世話を焼き続けたりしてしまうのです。
でも、子供が自立していく寂しさは、親が自分自身で処理すべき問題。
決して子供の自立を阻もうとしてはいけません。
自分がいなくなった後も子供がきちんと幸せに生きていけるように、将来家庭を持ち養っていけるように……
それが子育ての究極のゴールではないでしょうか。
「自分の生きがいである『子育て』を奪われたくない」
そんな親のエゴで、子供を自分の手の内から出ないようにコントロールするのは良くないことです。
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子供部屋作りのポイントは自己肯定感!
隠れ毒親にならないためには、どうすればいい?
では、隠れ毒親にならないためにはどうしたらよいでしょうか?
まず、子供が小学校3〜4年生ぐらいになったら、少しずつ距離をとっていくこと。
それは子供を見放したり放任したりするということではなく、物理的にも精神的にもほどよい距離感で子供を見守るということです。
イギリスの小児科医・精神科医のドナルド・ウッズ・ウィニコット(1896-1971年)は、『ほどよい母親(good enough mother)』という言葉を提唱しています。
ほどよい母親とは「普通の良い母親」のことで、
存在とのこと。(もちろん父親も同様です)
と書かれていて、行き過ぎず少な過ぎず、ほどよいさじ加減で子育てをすることが大事だと言っています。
親が良かれと思って年中子供のことばかりを考え、子供の為に何もかも犠牲にして時間や労力を費やすよりも、頑張りすぎずほどよく距離を取って子供に任せつつ見守るほうが、子供は健全に育つということですね。
また、同じくウィニコット博士は『ひとりでいる』ことも子供の心の成長には大切だと言っています。
すなわち、内的環境の確立が達成され、くつろいでいられるのである。(中略)
独りでいられる能力は、情緒的成熟とほとんど同意語である。
子供には、親からの指示を受けずに自分で考えたり決断したりする時間、自分は何が好きでどういうことが嫌か、将来どうしたいのか、自分の内面とじっくり向き合う時間が必要なのです。
もちろん子供が手を差し伸べてほしいと思った時に近くにいることは大切ですが、
「普段手や口を出し過ぎているかも?」
と思う親御さんは、ちょっと手を引いてみるといいかもしれません。
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モンテッソーリ教育とは?大切なのは親の接し方
まとめ ~子供を賢く見守って『隠れ毒親』から脱却しよう
子供は、この世に生まれ落ちた瞬間から1つの人格を持つ人間。
そして子供の人生の主人公は『子供自身』です。
決して親が作りあげる作品ではありません。
親の役目は、ありのままの子供を受け入れて無条件に愛情を注ぐこと。
そして子供の意志や考えを認めて、自立期に自由に人生の選択ができる環境を整えることです。
子供が成長していずれ社会に出ると、さまざまな荒波やストレスにさらされます。
そんな時、幼少期から親が自分を肯定し受け入れてくれたことで構築された自信と安心感が、子供を守り強くしてくれるのです。
子育ての成功は、「親が良いと思う理想の大人」になることではなく、「自分で考え判断できる力を持ち、自信を持って幸せに生きていける大人」になることと言えるでしょう。
もし子育ての途中、また子育てが終わってから、
「子育ての仕方を間違えたかな」
「もしかしたら自分は隠れ毒親だったかも」
と思っても、大丈夫。
気がついた時に修正すればいいのです。
「今までこんなふうにしていたね。嫌だったかな。ごめんね」
「お母さん(お父さん)間違っていたかも。」
そう素直に言えば、もしそれで子供が長年苦しんでいたのなら心がスッと楽になるでしょう。
たとえ子供が大人になってからでも、親がしっかり向き合うことでその後の人生が変わります。
自分が正しいと思ってしてきた子育てに向き合い修正するのは、とても勇気がいること。
でもそれが、自立する子供への、親としての最後の役目です。
子供の人生を豊かで幸せなものにするために、ほどよく距離を取り、子供を信じ、賢く見守る子育てをしていきましょう。
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