「これからは思考力が大切!」と言われる昨今。
そう言われても、子供をどう育てればよいのか迷っている親御さんも多いと思いのではないでしょうか?
私たち親世代が子供の頃は、計算や暗記がいかに得意かで出来不出来が決まってきたので、いきなり『思考力』と言われても戸惑いますよね。
でも『思考力』は、わからないからとうやむやにせず、実はすぐにでも本腰を入れて取り組むべき課題。
しかも、思考力は家庭で養うのが一番効果的な能力なのです。
学校でも思考力教育が始まっているし、プログラミングやロボット教室などの習い事もあるけれど、週に数時間の授業よりも毎日の家庭での過ごし方のほうが大切。
ちょっとした心がけで、しっかりと思考力を鍛えることができますよ。
モンテッソーリ教育とチャイルドコーチングの指導者で1児の母でもある筆者が、子供の『思考力』の養い方や適した時期についてお伝えします。
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「思考力が大切」と言われるようになった背景は?
まず、今なぜ思考力が注目されるようになったのでしょうか?
それは、10年に1度改訂される文部科学省の「学習指導要領」によります。
2020年に改訂された小学校の新学習指導要領では、
引用元:文部科学省・学習指導要領第1章総則『小学校教育の基本と教育課程の役割』
と、『思考力・判断力・表現力』そして『主体性』について明記され、2021年の中学校・2022年の高校の学習指導要領の改訂でも、これらは一貫して全教科で必要なこととして書かれています。
そもそも、なぜ文部科学省がこのように教育方針を従来の知識重視型から大きく舵を切ったかというと、それは世界で急激に進むインターネットや人工知能(AI)の技術に対応するため。
とは言っても、単に理系の教育を強化するだけではありません。
「この先どんな世の中になっても、自ら課題を見つけ、解決方法を考え、判断し、新しい価値観を表現(創造)できる人材を育てる」
ということを目標としています。
このような取り組みは、欧米では特に目新しいものではなく、もともと思考力や自由な発想力を育てたり個々の意見を尊重する教育は行われてきました。
それが近年加速し、欧米のみならずアジア各国でも、文理を融合させて問題解決を行う人材を育成する『STEAM教育』が進む中、日本もようやく腰を上げたというわけです。
昔と変えるべき勉強の仕方
そんな中、具体的にどう入試問題が変わり、どう勉強をしていけばよいのでしょうか?
従来の中学・高校・大学入試は、いかに正確に暗記しているかを問う問題が中心でした。
それが今は徐々に「正確に答える」よりも「どう考えたか」という過程を評価する傾向に。
また、与えられた様々な情報を総合的に判断し、最終的に「自分の見解を述べる」という問題も増えています。
例えば中学受験では、遊園地のマップや優先チケットの条件などをもとに、どうすれば効率よくまわれるかを考える問題。
また大学受験では、ある社会問題に対してたくさんの文章やグラフが提示され、与えられた条件のもとで自分なりの解決方法を見出して記述する問題など。
このような問題を解くには、知識や技能を得た上で、それらを使って「自分で考え、判断し、表現する」力もつけなくてはいけません。
これまでの暗記中心の学習だけでは太刀打ちできない内容になり、より『総合的な地頭の良さ』が問われる入試になっています。
「そんなに入試が難しくなってしまって、今の子供たちは大変…」
と思うかもしれないけれど、考える力はこれからの社会で必ず役立つもの。
従来の、実社会では使わない重箱の隅をつつくような細かい知識を問う試験と比べると、より実用的になったと言えますよ。
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思考力を鍛えるのは、何歳が一番いい?
では、その思考力を一番効率的に身につけられるのは、いつなのでしょうか?
思考力は、その気になれば何歳からでも鍛えられます。
でも大人になってから思考力を養おうとすると、とても多くの時間と労力がかかります。
しかも、思考力をつけてこなかった人にとっては、まず『じっくり考えること』そのものが大変苦痛。
そしてその苦痛を最初に感じ始めるのは、実は小学1年生というとても早い時期なのです。
脳科学の考え方で、
「ある能力を獲得するためには、適した期間=『臨界期』がある」
という仮説があります。
例えば、絶対音感を獲得できるのは5歳まで。
また母国語・外国語に限らず『言語』がネイティブとして身につくのは、6歳までが一番効果的、遅くても12歳までと言われています。
そして『思考力』はその言語と連動していて、同じく6歳までが最も適した臨界期で、13歳を過ぎてしまうと非常に身につきにくいことがわかっています。
さらに、思考は精神的な部分と密接につながっているため、思春期や反抗期に入ると大人からの働きかけで養っていくことが困難に。
ですので、できれば幼児期、遅くても小学校低学年までには論理的思考力の土台を作っておくのが理想です。
学校や習い事だけではだめ?思考力を鍛えるのに家庭が最適な理由
子供の思考力を養う場所は、学校でのアクティブラーニング・STEAM教育・プログラミング・ロボット教室など。
でも、本当に効果的に思考力が鍛えられるのは『家庭』!
週に数時間の授業や習い事より、乳幼児期~小学校低学年でもっとも多くの時間を過ごす家庭でどれだけ頭を使えるかが、大きなポイントになります。
注意したいのは、文字や計算のドリル学習では思考力は鍛えられないということ。
親子の会話・お手伝い・遊びなどの中で頭を使うことで、初めて思考力が養われます。
また、同時に養いたい判断力や表現力も、家庭での心がけ一緒に鍛えることができますよ。
では、具体的にどうすれば家庭で思考力を鍛えられるのかをみていきましょう。
子供の思考力を伸ばす方法
家庭で子供の思考力を養うには、次のサイクルがおすすめです。
STEP ① 好奇心を刺激する
STEP ② たくさん話す
STEP ③ 1人で考える時間を増やす
子供の思考力を鍛える方法
STEP①「好奇心を刺激する」
子供の思考力を養うには、「思考力問題」や「思考力教材」などで強制的に頭を使わせるよりも、自然に思考をしたくなる環境を作るのがもっとも効果的。
それには、『知的好奇心』を刺激する題材をたくさん見聞き・体験させることです。
好奇心を刺激する体験は、日常の中でもできるし、お出かけなどの非日常の中で行うこともできます。
たとえば、
日常の中でできる体験
工作(自由度の高いもの)
実験(水・光・色・食べ物など)
料理のお手伝い
ごっこ遊び/公園遊び/スポーツ
テレビやDVD(自然科学・スポーツ・料理番組など)
本/図鑑/おもちゃ
非日常の体験
自然(海や山)
動物園/博物館/美術館
音楽鑑賞/旅行
などなど。
こういったさまざまな体験の中で、
「なぜ?どうして?」
「知りたい!やってみたい!」
という知的好奇心をたくさん発生させることが大切。
それが『思考』の始まりです。
思考は、机でするより実体験しながらするほうが、得るものが何倍にも!
机上ではその場限りだけれど、実際に見聞き・体験するとさまざまなことを複合的に考えてより深い思考となり、
「じゃあこれはどうなんだろう?」
「こうしたらどうなるかな?」
と、次から次へと発想が広がっていきます。
そして、あれこれと試行錯誤をしながら体験したことはその子の財産となり、何年経っても忘れません。
好奇心を刺激する体験をする際のポイントは2つ。
1つめは、活動内容を強制せず子供が自分で興味をもったことを体験させること。
もし親の理想と違ったり、年齢より幼稚なことだったり、大人から見ると役に立たなそうなことだったりしても、
『自分から何かに興味を持って追求する過程』
そのものに意味があります。
どんなことでも心ゆくまで追求して満足したら、いずれ卒業してまた新しいことに興味を持っていきます。
いま子供が興味を持ったことを否定せずに大切にしましょう。
2つめは、大人が知っている効率の良いやり方や答えを教えないこと。
子供の体験は、正しい答えに最短ルートでたどり着くことが目的ではありません。
子供が自ら「こうかな?」と考え、失敗を繰り返しながら解決方法を探っていくことが大切。
「成功するか」「どんな知識を得るか」という『結果』は、思考力を鍛える上ではあまり重要ではないので、親が手や口を出し過ぎないようにしましょう。
こういった活動は、園や学校のイベントや習い事でもありますよね。
でも集団行動では個々の自由度が少なく、芽生えた好奇心を深く追求できないというデメリットが。
家族なら、自由に立ち止まったり感じたことを話したり、興味の方向が変われば予定を変更したりできるので、やはり思考力を鍛えるには家族で体験するのが一番効果的ですよ。
思考力は、脳や心が自由でワクワクしていて、ちょっとした興奮状態にあるときに育ちます。
できるだけ時間や内容の制約なく、自由に思う存分取り組めるようにしましょう。
子供の思考力を鍛える方法
STEP②「話す時間を増やす」
さて、好奇心がたくさん育ち、頭の中に疑問やアイディアがたくさんあふれたら、今度はそれらを整理する『思考回路』が必要になります。
思考回路とは筋道を立てて考える回路であり、幼少期に身につけると一生使える脳のツール。
思考回路を作るには、まず話す機会を増やすことが大切です。
先にも述べましたが、『思考回路の発達』は『言語の発達』と連動。
子供は、何かを見聞き・体験したことを言葉にして相手に伝えることによって、頭の中を整理していきます。
大人が話をする時には大抵結論が決まっていて、それを説明するために話すけれど、子供はまだ結論が出ていない状態で話し始めることがしょっちゅう。
「あれがこうなって、それで自分はこう思って…」
と話しながら終着点を探し、その過程で思考回路が組みあがっていくのです。
だから、子供の話がつたなくて何を言いたいのかわからなかったり、間違っていたりしても、とがめたり急かしたりするのは禁物。
笑顔で目線を合わせながら、口を出さずに最後までしっかり聞くことで、子供は自ら思考回路を組み立てていきますよ。
「でも、うちの子はあまりお喋りが得意ではないし、親も何を話していいのかわからない…」
というときは、次のような方法がおすすめ。
子供とたくさん会話をする方法
- その日あったことを『5W1H』で聞く
- 子供が好きなことを話題にする(TVやアニメの話でもOK)
- 読んだ本の感想を言い合う
- 一緒にニュースを見て、どう思ったか、どうしたらよいと思うか話し合う
開成中学・高校の元校長で東京大学名誉教授の柳沢幸雄さんは、「子供の話を聞くときには5W1Hで質問するとよい」とおっしゃっています。
「6つの疑問詞、『いつ・どこで・誰と・何を・なぜ・どのように』を使って子供の話を紡いでいけばいいのです。
1回に1つずつ。話が一段落したら、『ということは◯◯ってことだね』と要約してやる。子供はそこから論理的な話し方を学んでいきます。」
出典プレジデントファミリー『東大生184人頭のいい子の育て方』 (2019年秋号)
また、子供が興味があること、実際に体験したこと、読んだ本、その日のニュースなどは、子供も話しやすいので会話のきっかけにおすすめですよ。
子供と会話をする際に気をつけたいのは、子供の話を決して否定しないこと。
1度ならまだしも2度3度と否定されると、子供は
「もう大人に話すのはやめよう」
と心を閉ざしてしまいます。
たとえ子供の話が間違っていても、
「そうなんだね」
「〇〇ちゃんはそう思ったんだね」
と一度共感した上で、
「お母さん(お父さん)はこんな風に考えたよ」
と伝えれば、子供は、
「お母さんの考えもおもしろいね!」
「じゃあ、こういうこと?」
と、そこからさらに思考を膨らませていきます。
『話す』ことは『自己を表現する』こと。
自分の考えをきちんと表現できる、つまりどんな話でも聞いてもらえる環境が家庭にある子は、自己肯定感もおのずと高まっていきますよ。
ただし、中にはいくらこのように会話のきっかけを作っても、あまり話さない子も。
その場合は、もしかしたら『言語優位タイプ』の子の可能性があります。
感覚の中で視覚や聴覚に比べ『言語感覚』が優位に働く子は、何かが起こったり体験したりした時に、頭の中であまりにも多くの言語思想が渦巻くため、逆に言葉が出にくいのです。
その代わり、話すときにはゆっくりでも順序だててきちんと話すことができます。
いずれは論理的に話すことが得意になり、作家やコピーライターになるケースもありますよ。
言葉が遅いからと言って必ずしも思考が育っていないということではないので、あまり急かしたり、たくさん話すことを強制することのないようにしましょう。
子供の思考力を鍛える方法
STEP③「1人で思考する時間を増やす」
好奇心を刺激し、たくさん話をしたら、最後に必要なのは『子供1人で思考する時間』。
思考力を鍛えるには、最終的には子供1人で頭を使って考える時間をどれだけ持てるかにかかっています。
理想は、朝起きてから夜寝るまで常に何かを考えていること。
「えっ!?それを子供に求めるのは無理では?」
と思うかもしれませんが、実はもともと子供は生まれたばかりの乳児期から、起きている間中ずっと何かを考えているそう。
人生で一番哲学をしているのは、赤ちゃんの時なんだそうですよ。
そこに、家族の声・音楽・家や街の雑踏などが外部刺激となり、外の世界に適応しながら乳児~幼児期にかけて脳ができあがっていくわけです。
その刺激が良いものだけならいいけれど、
「それはダメ」
「次はこれをしなさい」
「これはこうすればいいのよ」
「早く〇〇しなさい」
「いつまでボーっとしているの!?」
といった命令や制限の声掛けが増えると、子供はだんだんと自分の思考回路を閉じていきます。
『しつけ』と『自由』のさじ加減は難しいところだけど、あまりに子供を親の思い通りにコントロールしようとする声掛けは、思考力が育つ大きな妨げになる危険が。
思考力を存分に育てるには、子供が1人で自由に際限なく思考を巡らす時間を多くすることが大切なのです。
先の柳沢幸雄東京大学名誉教授は、
「子供がゴロゴロしている時、もしかすると何か哲学的なことを考えているのかもしれない。(中略)
表層的な行動のみで判断して『勉強しなさい』なんて言ってしまったら、子供の思考を邪魔するだけですよ』
と述べています。
また、将棋の藤井聡太さんの親御さんも
「息子がなにかに集中しているときは絶対に止めないように心がけていた」(Yahoo!ニュース)
とのこと。
そもそも、思考力を鍛えるということは、集中力を養うことでもあります。
”子供が集中して取り組んでいるときには、決して声をかけず、できれば視界にも入らないことが望ましい”
と、子供の邪魔をしないことの大切さが説かれています。
この『思考力』と『集中力』は、乳幼児期が一番身につきやすく、子供の一生の財産になるもの。
目先のことが気になって、ついつい先回りしてやってあげてしまったり、
「早くしなさい」
「今はこれをやって、次はこれをするのよ」
と親のペースで急かしてしまいがちですよね。
でも本当に子供の思考力を育てたければ、親にできる最大のことは、
『子供の思考を邪魔しない』
それに尽きますよ。
まとめ ~子供の思考力の鍛え方
子供の思考力は、このように
STEP ① 好奇心を刺激する
↓
STEP ② たくさん会話をする
↓
STEP ③ 1人でじっくり考える
というステップで無限に伸ばすことができます。
大切なのは、親が子供の思考をコントロールしようとしないこと。
思考力が育つのは、あくまで子供自身が思考することによってのみ。
外からあれこれ教えても、それは耳から入る知識でしかなく、思考にはなりません。
子供の思考は、もしかしたら思ってもみないような方向に進んでいくかもしれません。
でも、親が予想していた思考、もしくは正しいと知っている思考に進まなくても、決して否定したり止めたりしないようにしましょう。
繰り返しますが、大切なのは「結果」や「得られる知識」ではなく、『思考する過程そのもの』です。
親にできることは、
思考のきっかけを与え
子供の話に共感し
子供が思考しているときに邪魔をしない
こと。
つまり、あくまで適切なサポートに徹することです。
そうすることで、『思考力』はもちろん、試行錯誤しながら良い方法を模索する『判断力』や、自分の体験や感じたことを人に伝える『表現力』も一緒に身につきます。
そして何より、
「自分で考えて自分でやった!」
という満足感と自信は大きな自己肯定感となり、これからの人生で何事にも「自分でやってみよう!」と主体的に取り組む意欲につながりますよ。
子供、特に幼児の思考力を養うには、親の工夫と根気が必要。
でも小さいうちにしっかり思考力をつけておけば、これからの勉強も将来の仕事もグンと楽になりますよ。
今だけの苦労と思ってがんばりましょう!
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